花と兵隊を観た
20歳代の松林要樹監督のドキュメンタリー映画である。太平洋戦争で19万人の日本兵が命を落としたビルマで敗戦を迎え、日本に帰還しなかった6名の「未帰還兵」の現地での家族生活を中心に、彼らの「戦後」を描いている。
タイトルにある「兵隊」は、未帰還兵のことであるが、「花」とは?彼らが現地で結婚した女性のことでもある。なぜか、みんな知的で美しい。90歳前後の高齢で、奥さんをなくした人もいるが、みんな孫やひ孫がいる大家族で、今やゆったりとした日々を送っている。その日常を、孫の世代である監督が、丁寧なインタビューをほぼ単独敢行している。彼らが、なぜ日本に帰らなかったについては、捕虜になる可能性などがあるが、映画の中では明確にされていない。人それぞれ、帰るに帰れないわけがあったであろうが。
結果ではあるが、共通しているのはそれぞれの未帰還兵が、車関係や灌漑・土木などの技術を持ちあるいは英語や中国語が堪能であるといった人たちであり、現地で歓迎されている。現地で生活するうち、現地の女性を紹介されるなどして結婚し家族を持ち、次第に、帰ろうにも帰れなくなったということであろうか。長年にわたる現地での、家族に囲まれた実生活の引力は強い。
6人へのインタビューも、そう簡単に実現するものではない。本人たちがOKするまでは、何度も何度も頼み込み随分と苦労したそうだ。恐らく、孫のような歳の日本人監督のたっての頼みであり、本人たちの90歳という年齢も合わさって、実現したのであろう。もう少し時が経てば、証言はできなくなる。現に、映画の製作中に2人が亡くなっている。
インタビューの内容であるが、戦争批判や軍国主義の断罪などは直接的には聞かれない。むしろ現地での日常生活や、家族を大事にしながら、国や地域に役立つ仕事をやってきた達成感などが印象に残った。淡々と話していた未帰還兵たちからは、誠実な生き様あるいはむしろ幸せ感さえ伝わる。
しかしながら、上官や天皇の命により、現地の人たちに対し極めて残虐な、戦争の場以外では到底考えられない行為の数々が、言葉の端端に出てくる。また、軍隊内部でも常軌を逸した行為があったことも語られた。静かに話され、声高ではない主張だけに、聞き逃しがちではあるが、重い。考えさせられる。まさしく、戦争は人を狂わす。抑えながらも当事者たちの口からその狂気の実態が語られたことは意味が深い。
「花」とは妻のことであるが、他の意味もある。映像の切り替えや展開のシーン随所に、ビルマやタイの美しい自然が映しだされる。特に睡蓮の花は、はっとする美しさを持っていた。(090925・N)
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